« 消費増税 | トップページ | 美、知、名誉、富 »

2014年4月22日 (火)

『白昼艶夢』

誰も最近はほとんど本を読まなくなり、画像や動画を楽しむ時代へと変化した。でも、活字だけから情報を受け取る本は豊かなイマジネーションを育てる。イメージが画一化される画像や動画より味わい深いものがある。
さて、朝山 蜻一と言う作家が『白昼艶夢』なる作品を書いているので以下に抜粋を引用する。興味のある方は読んで見てください。

わたくしの身体の寸法を計ったり、ご自分で針を持ったりして、あなたは美しいコルセットを作ってくださいました。中に鯨のひげを入れた丈夫な帆布を芯にして、肌ざわりのよい綾羽二重で覆った驚くほど華奢なものを、幾日もかかって、お作りになりました。わたくしにこれが着られるでしょうか、と云うと、あなたは着られるとも、お前の身体はマシマロのようにやわらかいから、どんな形にでもなることが出来るんだ、さあ、これを身につけて、僕を気狂いのように喜こばせておくれ、と云われた時、わたくしは嬉しいような、恐ろしいような気がしました。
 だって、それは普通の人間の身体では、想像も出来ない美しい曲線を持った美術品のように高貴なものでしたが、触ると、はがねのように堅く強いのですもの。あなたは、やさしくわたくしを抱きしめて接吻し、さあ僕が着せてあげようと云って、わたくしの着物をお脱がせになりました。わたくしは恥かしさで何も考えることが出来ませんでした。はじめ軽くコルセットが肌にふれたとき、わたくしは何とも云えない戦慄を全身に感じましたが、あなたが締紐(しめひも)を色々に結ばれて、さあこれでいい、と云われた時わたくしは、自分の身体が自分の身体とは思えぬほど、堅い甲羅の中へ閉じ籠められてしまった事を知りました。
 わたくしは、あなたにしがみついたまま手を離すこともできませんでした。わたくし、息を吸うことも、吐くことも出来ませんわ。そう云って、わたくしが息をつめたまま、あなたを見ると、あなたは上気した眼で、じっと、わたくしの身体を見つめながら、笑っておいでになるのです。わたくし、はじめはあなたの一時の戯れだと思っておりましたので、じっとこらえていられたのですわ。横になると楽になるよ。あなたは意地の悪い眼つきで、そうおっしゃって、コルセットで固められた裸のわたくしを抱いて、ベッドに寝かせて下さいました。それからわたくしが恐ろしく思ったほど熱狂的に、気が遠くなるほど、いつまでも愛撫が続きました。
 わたくしは、とても嬉しかったけれど、それは苦しい歓びでした。ねえ、もういいでしょう? 解いて下さらない? 苦しいわ、そうお願いすると、あなたは疲れた眼を不思議そうに光らせ乍ら解く必要なんか、ないじゃないか。これがお前の身体なんだよ。僕が夢に描いていた天使のように美しい女の身体なんだよ。と云われました。わたくしは、これがあなたの戯れではなく、必死な愛撫であることを、やっと身を以って知ったのでした。それに、一つはわたくし自身嬉しいことでもありました。さすがにあなたが、わたくしを選んだだけあって、わたくしはどんな華奢な女のひとと比べても負けないほどほっそりとしている上に、固い骨があるとは思えない軟かい身体をしていたのですもの。
 それが更に妖しいほど曲線を与えられたのだと思うと、何とも云えぬ官能的な満足を感じました。苦しかった幾日かがたつと、わたくしの身体も馴れて、そのコルセットの形の通りに変ってきました。苦痛は去り、堅い殻に閉じ籠められ締めつけられるわたくしのからだは昼も夜も、しびれるような快感を覚える様になりました。あなたは毎日、注意深くわたくしを観察していて、わたくしの身体が馴れて楽になると、追いつめるようにコルセットの紐を締め上げてゆくのでした。わたくしの身体は、段々狭く細くなってゆき、両方の親指と人指指で簡単に環を作れるほどになりました。あなたはそれはどんなに喜こばれたでしょう。感嘆して眺め、さすり、限りない愛情でわたくしを愛して下さいました。
 しかしあなたは、紐を締めることは忘れず少しでも楽になると、更に紐を締め、コルセットの胴廻りを狭くしてゆくのでした。あなたは、何処までわたくしをつめたら満足なさるでしょう。どれほど身体が細く奇形になったら、おやめになるのでしょう。そう思った時、はじめてあなたの執拗な追求の怖ろしさを知り、わたくしは激しい恐怖に襲われたのでした。わたくしの身体にも限りがあります。わたくしにも血の通っている命があります。あなたの求める肉体の追求は、いま、わたくしの生命のともしびの、すぐ前に迫っていることを知りました。わたくしは肉体的苦しみでなく、精神的の苦しみで気が狂いそうになりました。もういや、もういや、勘忍してコルセットを脱がせて――。
 わたくし息が止まってしまいます。わたくしは、必死あなたにお願いしたのに、あなたはそれには返事をしないで一分でも二分でも紐をつめることばかり夢中になっていらっしゃいました。(「白昼艶夢」より)

« 消費増税 | トップページ | 美、知、名誉、富 »

コルセット」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/585725/59511237

この記事へのトラックバック一覧です: 『白昼艶夢』:

« 消費増税 | トップページ | 美、知、名誉、富 »

無料ブログはココログ